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東京高等裁判所 昭和31年(ラ)17号 決定 1956年2月20日

抗告人 鈴木虎雄

主文

本件抗告はこれを棄却する。

理由

本件抗告の理由は別紙抗告理由書及び追加抗告理由書記載のとおりである。

抗告理由第二項について。

執行吏江村俊次の賃貸借取調報告書には賃貸借関係なしと記載されているが、本件不動産登記簿によれば抗告人のため所論の賃借権設定登記あること明らかである。そして競売裁判所たる原裁判所は右登記簿の記載によつて本件不動産には所論の賃貸借の存することを認め、これを競売期日の公告に掲記したことは記録上明らかである。従つて右執行吏の報告が真実に合しなかつたとしても本件においてなんら競売手続を違法ならしめるものということを得ず、この点の主張は失当である。

抗告理由書第三項について。

所論は競売裁判所が鑑定人野村熊作の評価に従つて定めた最低競売価格は実情にそわない不当に廉価なものであるというにあるが、記録中の右鑑定人の評価書によれば同鑑定人は本件物件につき位置及び附近の状況、利用状況、構造、建築年月、敷地関係等につき現場を調査の上、これら諸般の状況と同人の特別の知識経験にもとずき、本件物件の価額を評価したものであることが明らかであり、今その評価を疑うべきかくべつの資料は発見し得ない。従つて右評価が不当に廉価であることを前提とする抗告人の本論旨は採用することができない。

抗告理由第四項について。

競売法において競落期日を利害関係人に通知すべきことを命じている直接の規定はない。同法第二十七条第二項に「競売の期日」とあつて「競売期日」とないことから、同条項にいう競売の期日とは競売期日及び競落期日の双方を含むものとの解釈の余地なしとしないけれども、もともと競売期日及び競落期日は競売期日の公告に掲げられるものであり、これを特に利害関係人に通知しなくても利害関係人としてはこれを知り得る機会をもつわけであるが、競売期日は直接利害関係人の利害に影響するところが大であるからこれを公告のほか利害関係人に通知することとしてその保護をはかることに意義があるが、これにくらべて競落期日はとくに競落の許否につき異議を有する者のある場合にはじめてその利害は直接のものとなるわけであり、しかも競落期日は競売期日の公告に必ず掲げられているのであるから、これを一々利害関係人に通知しなくても、特にその者の不利益となるわけのものではない。これ多年裁判所において競売法が「競売ノ期日」を利害関係人に通知すべきことを定めて、「競売期日」と限定しないに拘らず、競売期日の通知のみに止め、競落期日の通知をしない取扱としていることの実質的理由と考えられる。この取扱は右競売法の規定に違反するものとは解し得ない。本件においても原裁判所が競落期日の通知をしたことの認められないことは所論のとおりであるが、これをもつて違法とするには当らない。所論は理由がない。

追加抗告理由書第一項について。

本件の競買人大松英夫が抗告人所論の大松照子と同一人であることは、抗告人においてなんら立証しないのみならず、記録を調査してもこれをうかがうべきかくべつの資料は存しない。この点の主張は失当である。

追加抗告理由書第二項について。

記録中の競売手続調書の記載が事実に反する記載であることを疑うべきなんらの証拠も存しない。論旨は理由がない。

その他記録を調査しても原決定にはなんらの違法も発見し得ないから、本件抗告は理由のないものとして棄却すべきである。よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)

抗告理由書

一、抗告人は、本件競売事件の不動産につき、抵当権を有する利害関係人である。

二、本件競売事件につき、裁判所の命令に基く、執行吏江村俊次の昭和三十年十二月十二日賃貸借取調報告書によれば、競売目的不動産に関し、賃貸借関係無しと記載せられ、其旨裁判所に報告せられて居る。然るに不動産登記簿には、昭和二十九年七月一日受付第参〇〇〇号を以て、利害関係人たる抗告人のため、昭和二十九年六月三十日より向う満三ヶ年の賃借権設定登記が存するのであつて、右報告は事実に吻合せざるが故に、之れに基く本件競売は違法である。

三、次に裁判所の鑑定命令による、昭和三十年十一月十四日沼津市大諏訪三八七番地鑑定人野村熊作の評価によれば、本件競売目的不動産のうち、宅地は其価額壱坪金八千円と鑑定せられあるも、其鑑定理由によつても明らかなる如く、本件宅地は熱海市の繁華街に所在し、地価高き位置にあり、少くも壱坪金壱万五千円を下らざる価額である、而して建物は其価額壱坪金弐万円と評価せられて居るが、其建築年月日昭和三十年十一月三十日の建物としては最低壱坪金参万円と評価せらるべきに、右鑑定人は不当に低廉の評価を為したるものである。

即ち、右鑑定人の評価額は熱海市の地価並に建物価額につき、実情を調査せざる不当低廉の価額であつて、之れにより最低価額を定めて為されたる、本件競売に基く、競落人大松英夫に対する競落により、利害関係人抵当権者の債権に損害を被らしめたるは失当であつて、従つて右競落人大松英夫に対する競落許可決定は取消さるべきである。

四、利害関係人たる抗告人に対する昭和三十年十二月十五日の貴庁昭和三十年(ケ)第一二七号不動産競売期日通知書によれば、競売期日昭和三十年十二月二十六日午前十時の記載が為されたるのみであつて、競落期日の記載が為されていない、従つて競落期日が不明のため、競売法第三十二条に準用せられたる民事訴訟法第六百七十一条により競落期日に競落期日場所に出頭して、競落の許可につき陳述を為すに由無い。

蓋し競売法第二十七条第二項競売の期日は、之れを競売手続の利害関係人に通知することを要すと規定する趣旨は、総て利害関係人に競売の事実を周知せしめ、以て利害関係人の利益を保護せんことを目的とするにあるが故に、競売期日通知書には、単に競売期日の通知のみを以てしては足らず、競落の期日も之れを利害関係人に通知すべき法意なりと解する。

然らば本件競売期日通知書は競売法第二十七条に違反し、不適法なりと信ずる。

以上抗告理由により、抗告申立を為したる次第であります。尚右抗告理由以外の抗告理由については、追て抗告趣意書を提出します。

追加抗告理由書

一、不動産競売に於て、最高価競買価額の申出人が、真に競落代金を納付して、競売を為す意思なきに拘らず、競買の申出を為したることが、裁判所に明白なるときは、仮令競落を許すも、競売の目的物を換価して、債権者の債権を満足せしめんとする、競売の目的を達することを得ざるが故に、裁判所は、其者を競落人として、競落許可決定を為すべきものに非ざることは、判例の存するところである(大審昭和三年(れ)第一四五五号昭和三年一一月一日第五刑事部判決)。本件に付いて是を看るに、競買人大松英夫は、昭和三十年十二月二十六日の競売期日に、競買価額金弐百参拾万円の価額申出を為し、競落人として競落許可決定ありたるも、同人は本件不動産に関する、貴庁昭和二十九年(ケ)第九四号事件に付いて、昭和三十年二月十九日の競売期日に、大松照子名を以て本件不動産中一、宅地百四十七坪及一、宅地拾六坪を競落しながら、此競落許可決定に対して抗告を為し、競売の取消を求めたるものである(貴庁昭和二十九年(ケ)第九四号事件記録御参照)。然らば競落人大松英夫は、本件に付いて真に競落代金を納付して、競落を為す意思存せざること、頗る明白なるが故に、民事訴訟法第六百七十四条に於て同法第六百七十二条第二号の事由あるときは、職権を以て競落を許さざる旨を規定せる法意より推定して、右大松英夫を競落人として競落許可の決定をせらるべきに非ずと解する。

二、次に本件の昭和三十年十二月二十六日の競売手続調書によれば、昭和三十年十二月二十六日午前十時競買価額の申出を催告したりと記載せられあるも、該期日には午前十時三十分過に、初めて熱海地区の競売手続が履行せられており、午前十時には未だ競売手続は開始せられて居らなかつたものである。

然らば右調書は、事実に吻合せざる記載であつて、之に基く競売許可決定は、取消さるべきである。

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